小鳥

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ちょっと一休み

2017年05月06日

 ちょっと一休み

本日は、作詞を離れて少しリラックスした「小話」をお読みいただきたいと思います。私は、物語を書いたり、絵本のストーリーを考えたりすることも大好きです。今回は「不細工な顔」というテーマの小話をお読みいただきたいと思います。

不細工な顔

私の横には、まだ生後1歳3ヶ月の彩花が寝ている。夫はとても優しく、私を大切にしてくれる。

今、私は『幸せ』という言葉をかみしめている。幸せって本当にあるものなのですね!

 

あれは、私が中学3年生のときだった。学校から自転車での帰り道、見知らぬ浮浪者風の男の人が、私を見てつぶやいた。

「不細工な顔やなあ。」

それは、決して私に向けられた悪意の言葉ではなかったがゆえに、私をもっとみじめにさせた。

私は分かっている。確かに、私の顔は不細工だ。母親譲りの不細工さだ。

「もう・・いや!!」家に帰ってベットに潜って泣いた。

 

「夕ご飯だよ!」母の声が下の台所から聞こえてきたが、私は無視して、いやとても食べる気がしないまま、泣き続けた。

「どうしたの?ご飯食べないの?」

しばらくしてから、母が2階の私の部屋まで上がってきた。

私は、とても帰り道の出来事を話せるほど、まだ大人ではなかった。ただ、泣いていた。

母は、じっとしたまま、動こうとはしなかった。

「私、そんなに不細工?」

やっとそれだけを、私のために空腹に耐えている母に向かって言った。

 

「バカ!!何が不細工や!誰がそんなこと決めたんだ!不細工な顔の人間なんて、この世に一人もいる訳がない!」

母は、急に別人になったかのように、怒りを抑えながら静かに話し出した。

「いいかい、良く聞けよ。人間の顔はみんなそれぞれ違う。顔には、目があって鼻があって、口がある。歯並びの良し悪しもある。

みんな同じ形をしていたら、区別が付かないだろう!それに、それでは愛も恋も無くなってしまう。だからそれぞれ違っているだけだ。

おまえもやがて誰かを好きになり、やがて恋をし結婚するだろう。いいかい、顔とはその人間の心を表しているものなんだ。

形や並べ方なんかじゃないんだ。おまえが、明るく素直な人間ななら、それが顔だ。不細工な顔なんて、この世にはないんだ。」

母は、いつもの母ではなかった。不思議だった。いつも、ただ家族のためにひたすら生きている母だとばかり思っていたが、こんなにも凛とした生き様を持っていようとは。

父も、決して俗にいう〈二枚目〉とはかけ離れた顔立ちだった。そんな二人だが、私は二人が争う姿を見たことはかつてなかった。

 

母は、私の部屋から出て行こうとして、立ち止まった。

「私は、お父さんと一緒になれて、本当に幸せだよ。お父さんもお母さんも決して、美男美女とは程遠いかも知れない。でも私は、世界一の人と一緒になれた。お父さんだって、口には出さないけれど、私を大切にしてくれて、家族のために頑張ってくれている。いいかい、不細工な顔なんて、この世にはないんだよ。いつか、おまえにも分かるときが来るよ。」

母は、そう言うと階段を降りて行った。

それから、私は顔のことはあまり気にならなくなった。やがて高校を卒業して、地元の小さな商事会社に就職し、今の主人と知り合い結婚したけれど、お互い私の両親と同じように美男美女とはやはり程遠かった。

 

今、私は彩花と午睡をしながら、幸せを噛みしめている。

もし、私をあの中学生の時のように「不細工な顔」と面と向かって言う者がいたとしても、私は動じることはない。いや、もし不細工と言うのなら、その不細工に感謝したいと思う。何故なら、もし私がなまじ美人に生まれていたなら、私も多分やはり端整なマスクの彼氏を追い求め、「誰ちゃんの彼氏よりも、もっといい男を探そう!」などと馬鹿なことを考えて、今も独りでいたかも知れない。

不細工な顔なんて無いんだ。それは母の言うとおりだった。私は、そんなことで悩んでいる人がいたら、大きな声で言ってあげたい!

不細工?そんなことどうだっていいじゃないの!そんなこと誰が決めるの?幸せには、どうでもいいことよ。

 

【あとがき】青春時代は、私のように還暦を過ぎたものには遠い過去のことであり、若い人たちを見るととても羨ましく思います。私が二十歳の頃、あるお婆ちゃんから言われた言葉があります。

「青春を謳歌しなさい!」

その時の私はいくつもの悩みを抱えていて、とても青春を謳歌するなどと言う気分ではありませんでした。

歳月を経てこの年齢になって気付きました。あの悩みに満ちた日々が、青春であり、確かに「謳歌」していたのだったと!

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