創作の小部屋「独居老人のひとり言」第11回
2019年04月08日
「独居老人のひとり言」第11回
この花の画像は、近所の庭先で撮らせて頂いたものです。ピンクのとても愛らしい花です。
「独居老人のひとり言」は今回で11回となりますが、どこまで行くのかは見当が付きません。12~13回で終わるのか、それとも20回を超えるのか今の私には分かりません。深く考えず、思い付くまま進んで行こうと思っています。
「独居老人のひとり言」第11回
第10章 老人の淡い恋心
日曜日の夕方、パソコン仲間の友人から電話が入り、働いているのかと聞かれ、派遣の仕事を辞めたばかりだと話すと、来週から出て来て欲しいという。何でも新しく入った仲間が数人おり、指導する手が足りないらしい。私も、家にいるのが辛く、喜んで誘いに乗った。
早速、水曜日のパソコン勉強会に行った。しばらく振りなので、少し緊張して行ったのだが、みんな歓迎してくれた。来て良かったと安堵した。全員の顔を見渡すと、妻に似た50代の女性も笑顔で会釈をしてくれた。
今回は、エクセルで家計簿の支出の割合を円グラフで作っていた。講師役の友人が、全員の表情を観察しながら、上手に進めていた。私も、仲間の間を回り、遅れていないか、間違えていないかを確認して歩いた。例の50代の女性の机の傍の床にハンカチが落ちていた。一生懸命で気付かなかったらしい。拾い上げて渡す時に良い香りがした。女性は軽く頭を下げて微笑んだ。
パソコン勉強会の時間は、午後2時から4時までと決めてあるが、時によってはずれ込んだりすることもある。終ったあとは全員で戸締りをしてから別れる。
私は例によって、型式の古い車に乗っている。この日はあいにく先程の女性の車が車検に出してあり、このパソコン教室の別の女性にわざわざ遠まわりをして乗せて来て貰って来たらしい。今日講師役を務めた仲間が、私に言った。
「小松さん、大変済みませんが、大川さんを送って頂けませんか?この中では、小松さんが一番大川さんの家に近いものですから。」
私は、「はい、喜んで。」と彼女に向って言った。彼女の姓が大川であるということを、今初めて知った。彼女の道案内でおよそ10分位で着いた。車の中で話が弾んだ訳ではないが、彼女の現在の様子を少し知ることが出来た。彼女は言葉を選びながら、とても丁寧な話し方をする女性だった。容姿も十人並み以上の、賢明そうな感じがした。
結婚相手と離婚したのか、死別したのかは分からないが、30代の息子と二人暮らしとのことだった。事情があり、少し前に早期の定年退職をし、今は週4日のパートをしているとのことだった。彼女の家に着き車から降りると、彼女は深々とお辞儀をし礼を言った。私は「今度またこうした事情があるときは、連絡くだされば迎えに来ますよ」と、彼女の顔を見ながら笑顔で言った。
すると彼女はカバンから携帯電話を取り出し、私の電話番号を教えてと言う。私が番号を言うと、携帯にその番号を打ち込み始め、私の携帯の呼び出し音が鳴ると直ぐに電話を切った。笑顔で、登録させて頂きますと言った。
家に着くと、何故か落ち着かなかった。いくらパソコン仲間と言いながら、こうも簡単に携帯の番号を教えてくれるものなのか?私は妻以外の女性と携帯電話で話したことがあるのは、同じパソコン勉強会の女性への要件があるときのみであった。家に着き、車庫の中で彼女の携帯番号を登録したが、胸が高鳴った。 つづく