課題テーマに挑戦「鳥海山」第7回
2017年09月17日
課題テーマに挑戦「鳥海山」第7回
昨日から3連休で、尚且つ台風が来ているということで、本日は家にこもっていました。ですので、「鳥海山物語」を書く時間がありましたので、本日2回目のアップを致します。長文は暫くご無沙汰ですので、纏まるか正直自信はありません。
パソコンに向かって、思い付くことばを忘れないうちにとキーボードをたたいています。時々、物語に出て来る情景を知りたい時や文字の確認は、携帯のネットで調べながら書き進めます。昔は手元に必ず国語辞典を置いていましたが、今は携帯です。百科事典よりはるかに多種の莫大な情報を提供してくれる携帯は、今の私にとっては欠かせない必需品です。
脇道に逸れました。さっそく、「鳥海山物語」第Ⅰ章(3回目)を記載したいと思います。
鳥海山物語
第1章(3回目) 昭和43年初秋
「由美子ちゃん、僕は学校が遠いので寮に入ります。ここには、夏休みには、帰ってきます。その時は、もし出来たら会いたいです。どうか元気で、お仕事頑張ってください。」
ただそれだけの短い手紙でしたが、由美子はとても恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ちが重なり、胸が高鳴るのを抑え切れませんでした。
ヒマワリのつぼみが膨らみ、蝉が甲高い声で鳴き始めました。そうです。夏がやって来たのです。でも最近の由美子は、縫製工場での仕事中も何か考え込んでいる様子です。同じ中学から入った美代子が心配して、お昼休みにこっそり尋ねました。
「由美ちゃん、何か心配事?なんか変だよ!」
由美子は、「何でもないよ、有り難う」と返事をしましたが、また考え込んでいる様子でした。
複雑な想いで総一郎からの連絡を待つ由美子の元に、もう8月も終わるというのに、まだ総一郎からの手紙は届きません。9月になったばかりの夕方、いつか総一郎からの手紙を届けてくれた、近所の男がまた現れました。総一郎からの手紙を届けに来たのです。
「由美ちゃん、昨日実家に帰りました。元気でしたか?宿題が多く、つい帰省が9月になってしまったけれど、ちょうど明日から連休なので明後日の日曜日に、御嶽神社で会いませんか?10時に鳥居のところで待っています。」
やはり短い手紙でしたが、由美子には総一郎の気持ちが伝わってきました。ですが、由美子の表情はなぜか雲っていました。
もう暦の上では秋ですが、まだここ秋田でも日中はとても暑い日が続いています。由美子は母が縫ってくれた浴衣を着て御嶽神社に向いました。由美子は正直に、同級生の総一郎に会いに行くことを母のふみ子に伝えたので、古い小さな箪笥から「お祭りの時に恥ずかしくないように!」と予め縫って置いた浴衣を取り出し、着せてくれたのでした。
鎮守の森に囲まれた神社の鳥居に着いたとき、由美子の額に汗が光っていました。
神社の鳥居に目をやると、総一郎が待っていました。総一郎はだいぶ前から待っていたらしく、顔を紅潮させて嬉しそうに言いました。
「由美ちゃん、来てくれてありがとう!前に手紙を渡したのに、返事が貰えなかったので、今日は来てくれないかとずっと心配だったよ。」
「ごめんさない。手紙はとっても嬉しかった。私嬉しかった・・・」
やっと笑顔でそれだけ言うと、由美子の表情はまた曇ってしまいました。
由美子の表情の変化に気付いた総一郎が、由美子の顔を覗き込みながら言いました。
「由美ちゃん、どうしたの?なんでそんな悲しそうな顔をするの?」
鳥居をくぐり、境内を入ると本殿です。総一郎が言いました。
「由美ちゃん、先ずお参りしようよ。」
二人は、静かにお参りしました。由美子は両手を合わせ、ずっと長いこと頭を下げて、何かをお祈りしていました。
境内を歩きながら、いつか二人は手をつないでいました。
「由美ちゃん、これから僕と付き合って欲しんだけど、いい?」
総一郎の言葉に、はっと我に返ったように、由美子はつながれた手を解きました。
「私、とても総一郎さんとお付き合いは出来ない・・・。」
つづく