課題テーマに挑戦「鳥海山」第11回
2017年09月23日
課題テーマに挑戦「鳥海山」第11回
トランプ大統領の「北朝鮮の完全破壊」、また北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の「史上最高の超強硬対応措置の断行」と、世界中を不穏な雲息で包んでいます。万が一この戦争が起きれば、日本も大変危険な状況にさらされると思います。核開発は、間違いなく人類を破滅へと導きます。
人類が誕生してからいつも争いは絶えませんでした。今や人類は高度の知識を持ち、そしてその文明は人々の暮らしを豊かにしました。しかし、精神は発達しなかったのでしょうか?高度の知識は、人類の平和には何の役にも立たなかったのでしょうか?不思議でなりません。核がミサイルが、人類自らを絶滅へと追いやることは誰もが分かっていることなのに、どうして人類は共存へと舵を切り返さないのでしょうか?
本日も本筋から話が逸れました。「鳥海山物語」の連載に進みます。
鳥海山物語
第2章(3回目) 昭和46年1月
「由美ちゃん、どうしたの?また、悲しそうな顔をして。」
由美子は、言葉が出て来ませんでした。ただ潤んだ瞳で総一郎を見つめました。由美子は、心の内を察して欲しいと思ったのです。
中学校を卒業した年の夏、帰省した総一郎と初めてこの神社で逢ったそのとき、総一郎と逢うことを母に反対されたと伝えた折、総一郎は由美子を守って見せると確かに言いました。
今の由美子にとって、自分を守ってくれるということは、同時に母も切り離しては考えられないことでした。それを、総一郎は分かってくれているのだろうか?しかし、それは言えませんでした。総一郎に負担を掛けるだけであり、総一郎の両親や親せきからの反発を増長させるだけになるに違いないと思ったのです。
由美子が3歳の時に夫を亡くし、なりふり構わず働き、何とか由美子を育ててくれた母。その母に、寂しい想いまた辛い想いをさせることは、何としても避けなければならない、そう由美子は思っていました。母の今後の人生は、由美子が守らなければならない、日頃由美子はそう考えていました。
「由美ちゃん、どうしたの?僕は大学を卒業したら、東京の大きな会社に入って、由美ちゃんさえ良かったら、東京で一緒に暮らして欲しいんだ。」
それは、間違いなく総一郎からのプロポーズでした。
「私は、東京へは行けない・・・。」
由美子は、絞り出すように、自分に言い聞かせるように、ゆっくり小さな声で総一郎に言いました。
先程まで赤みが差して、いかにも健康そうなその総一郎の顔が曇りました。総一郎は、必ず由美子が喜んでくれると信じていました。きっと、頷いてくれると信じていました。
由美子は、手提げの紙袋を開け、中からマフラーと手袋を取り出し、総一郎に差し出しました。
「総一郎さん、これ使って頂戴ね。東京も冬は寒いでしょ?」
総一郎はまた急に笑顔になり、マフラーを首に巻き、手袋をはめました。曇った総一郎の顔がまた赤みをおびて、その整った顔が喜びに弾けました。
「由美ちゃん、暖かいよ。ありがとう。東京は秋田ほど寒くないけど、ビルの谷間の隙間風は、すごく冷たいんだ。」
嬉しそうな総一郎の言葉を聞き笑顔を見ると、由美子は微笑みました。そして、これまで欲しかった物も我慢した甲斐があったと、由美子は幸せな想いに一瞬浸ることが出来たのでした。
「総一郎さん、私、やっぱり総一郎さんとお付き合いは出来ない。ごめんなさい!」
由美子は、初めて御嶽神社で総一郎に逢い、涙を流した時と同じように、また涙を流しました。そして、「さようなら!」とだけ言うと、家に向かって走り出しました。 つづく