課題テーマに挑戦「鳥海山」第16回
2017年10月15日
最近、めっきり日が短くなりました。これから冬に向かうという季節は何か物寂しさを感じます。先日は猛暑で夏のようでしたが、今日は小雨が降り肌寒く感じます。
現在、「鳥海山物語」を時間が取れるときにパソコンに向かって書き進めていますが、直接思い付くままに書いていますので、この先の展開につきましては自分でも分かりません。
この物語を書き終えた後、「鳥海山物語」の作詞に入るつもりですが、大分先になるかも知れません。物語を作ることは楽しいことですが、文章が長くなるに従い、全体の脈絡が不自然にならないように読み返したりしています。また、登場人物の苗字ですが、ネットで由利本庄市の多い苗字を探して使わせて頂いています。ひとつの物語を書くにしても、やはり何の知識も持たない状態では書けませんので、パソコンの傍に携帯を置き、何か疑問を持った時や情報が欲しいときに活用しております。本当に、携帯は便利です。
では、さっそく「鳥海山物語」に入らせて頂きます。
鳥海山物語
第3章(3回目) 昭和49年1月
翌朝、両親と総一郎と二人の弟の5人で朝食を囲んだ折、総一郎は皆が食べ終わるのを待ち静かに父に向って言いました。
「お父さん、今日の夕方東京に帰るけど、その前に話したいことがあるんだ。お母さんも一緒に聞いて欲しんだけど。」
父と母は顔を見合わせて、不思議そうな顔をしました。
「いいけど、午後はちょっと用がある。朝飯が済んだら、おまえの離れの部屋に行く。」
総一郎は、少し散らかった雑誌やノート類を片付け、両親を待ちました。
暫くして二人の足音が聞こえてきました。
「入るぞ。」父の威厳に満ちた声がし、同時に襖が開きました。若い総一郎に覚悟は出来ていましたが、胸の鼓動が高鳴るのが分かりました。総一郎は、自分の想いを素直に話し、出来ることなら円満な承諾が欲しいと願っていました。
差しだした座布団に座った父は、母がまだ座りきらないうちに言葉を発しました。
「総一郎、何の話だ。お母さんまで呼びつけて。」
総一郎は、何から話そうかと迷いました。
「父さん、僕が北星産業で3~4年働いた後、竹内さんの会社に入ることは構わないよ。僕も、東京の一流会社で歯車として働くよりも、将来組織の中心として働ける、それ程大きくない会社で働きたいと思っていたんだ。」
父は、「そうかそうか。」と満足そうに頷きながら、笑顔になりました。
「じゃ、そのように頼むよ。話は、それだけだな?」
父が立ち上がろうとした瞬間、総一郎は土下座をしました。
「お父さん、お母さん。聞いて貰いたいことがあるんだ。」
総一郎の突然の土下座に何事かと母のしのぶは驚きましたが、一呼吸おいて総一郎の手を取って言いました。
「総一郎、親子なんだから土下座なんかしないでおくれ。遠慮せずに訳をはなしてごらん。」
「父さん、母さん、僕には好きな人がいるんだ。その人と一緒になると決めているんだ。だから、その人と一緒になるのを許して欲しいんだ。」
総一郎の真剣な瞳に、父も母も一瞬凍りついたように表情を失くしました。が、父はすばやく事の重大さに気付き、顔を紅潮させました。
「総一郎、お前に好きな人がいても、その人と一緒になることは許せない!」
先程の笑顔も消えて、命令するかのように厳しく言いました。
「まあ、お父さん。いきなり決めつけては総一郎が可哀そうではありませんか?」
父に母は諭すように言い、今度は総一郎に向って言いました。
「総一郎、お前の好きな人はどこの誰なんだい?大学で知り合った人なのかい?」
総一郎は、畳を見つめたままの顔を上げ、父に向って言いました。
「小学校からの同級生の、村上由美子なんだ。いま、阿部縫製工場で働いている。出来れば、今年の秋には一緒になりたいと思ってるんだ。」
「お前、村上由美子って、ご亭主に先立たれたあのふみ子さんの娘さんかい?」
母の顔はまるで血の気を失くしたように、ただ唖然としていました。そして父もまた同じでした。
つづく