課題テーマに挑戦「鳥海山」第29回
2017年12月29日
課題テーマに挑戦「鳥海山」第29回
今日は12月の29日、今年も今日を入れて3日だけとなりました。「鳥海山物語」の完成を急ごうと思い、今朝は6時過ぎに起きて書き始めました。今年中には作詞に入りたいと考えておりましたが、自信が無くなりました。どうして総一郎との連絡が取れないのか、この後の物語を書き進めるに当たり長い文章になるような気がしているからです。
今回の「鳥海山物語」は、自分の意思とは違った生き方を強いられた若い二人を主人公にしました。
鳥海山物語
終 章(3回目) 昭和51年7月初め
表情から笑顔が消えて、塞ぎ込むことが多くなって来た最近の由美子に、ふみ子はとても心を痛めていました。先日の料理屋の相談の結果を何とか上手に話さなければと、ふみ子は二日悩みましたが、結局ありのままを話す以外に考えが浮かびませんでした。
夕飯を終えた由美子が、ただ眼だけを雑誌に向けていましたが、心は宙を彷徨っているかのようでした。ふみ子は決心して由美子に声を掛けました。
「由美子、お前最近疲れているようだけど、大丈夫か?話があるんだけどな、お見合いの相手の信彦さんの両親から、秋には婚礼を挙げたいと言ってきたんだけど、私もそうしたいと思って、ぜひよろしくお願いしますと言ってしまったんだが、由美子もそれでいいな!」
由美子は、母は自分とは違う別な誰かに向って言っているようなそんな気がしました。母は、由美子の同意を求めているようでしたが、由美子は発する言葉を探すことさえも億劫でした。黙って、雑誌に目を向けたままでした。
「なあ、由美子。お前が総一郎さんと一緒になりたいと思っているのは、この母には分かる。私も出来ることなら、それが一番だと思っている。でも、総一郎さんは、仁賀保の大きな会社の社長さんの婿養子に入るという話だし、お前もいつまでも若くはいられない。今回お見合いをした信彦さんは、お前に贅沢をさせてはくれないかも知れないが、お前に辛い想いをさせることはないと思う。それに、信彦さんのご両親も、お前を実の娘だと思って可愛がってくれるそうだ。その上、今年中に新居も建ててくれるそうだ。こんな有難い話は、長い人生の中でも何度もあることじゃない。由美子、私からもお前に頭を下げて頼む。どうか、この母を安心させると思って、信彦さんと夫婦になってくれないか!」
ふいに由美子は目頭が熱くなり、涙が溢れてきました。しかしこの涙がなぜ流れるのか、その理由は由美子にも分かりませんでした。
去年の8月に総一郎の婿養子の噂を聞き、真意を確かめるという意味ではないにしろ数十通送った手紙には返事がなく、遥か遠い東京のアパートに出向いても姿の見えない総一郎。由美子は胸が裂けるような想いに打ちひしがれた、この弱い女の心を支えてくれる誰かの力を求めている自分に気付いていませんでした。
その晩は、ふみ子もそれ以上由美子に迫ることを控えました。
次の日の昼時、信彦からまた電話が入りました。同僚の美代子は気を利かせて、鼻歌を歌いながら部屋から出て行きました。
「由美子さん、お母さんから話を聞きましたか?昨夜、両親から聞いたのですけど、結納の日も婚礼の日ももう決めてしまったそうです。僕は、由美子さんから、はっきりした返事を貰っていないのに、何で勝手に決めたんだと腹を立てて、食って掛かりましたが、由美子さんのお母さんも了承していることだからと言われ、それ以上何も言えなくなりました。もちろん、僕には嬉しいことですが、由美子さんが心底納得して、僕のお嫁さんになってくれるまで僕は待つつもりです。その後、総一郎さんとは、連絡は取れませんか?」
お互いの両親が、結婚する当人たちの承諾も得ずに、結納から婚礼の日までも決めてしまったという事実に、由美子は確かに衝撃を受けましたが、心の隅で『これで良かったのかも知れない。』と安堵のような想いが一瞬芽生えていました。 つづく