小鳥

ブログ

課題テーマに挑戦「銚子港」第10回

2023年06月13日

 課題テーマに挑戦「銚子港」第10回

関東地方も梅雨に入り、何かうっとうしい日が続きます。  

今日のニュースでは、ウクライナ「南ドネツク戦線」で露軍占拠の7集落を奪還反転・・反転攻勢開始から1週間、とい記事が大きな文字で報道されています。

ウクライナ国防次官は12日、ロシア軍からの領土奪還に向けた大規模反転攻勢の開始から約1週間で、東部ドネツク州と南部ザポリージャ州の七つの集落を奪還したとSNSで明らかにしたとのこと。また、ウクライナ軍は、ロシア本土と南部クリミアを結ぶ「陸の回廊」の遮断を狙っているとのことです。

双方の国においては、多大なる経済的損失と尊い兵士の命が奪われています。ウクライナでは7,000人以上の民間人の死者もでているようです。この醜い戦いは、いつ終わるのでしょうか?

人類は太古の昔から、利害関係から数え切れないくらいの戦いを繰り返しています。もし、核戦争にでもなれば人類は滅びます。今のロシアの指導者が、戦いの場において万が一にでも使用することのないようにと弱者は祈るばかりです。

下の2枚の画像は、我が家の花壇に咲いた花です。

下の画像は、先日、朝の5時頃、散歩時のに撮りました。筑波山を背景に、幼い苗が元気に育っている田んぼに、朝日が映っています。私は、幼い頃よりいつも見ている筑波山が大好きです。

アイキャッチ画像は、鮮やかな赤色をしたユリの花です。

  物語  想い出の銚子電鉄外川駅(第3話)

私を息子のように可愛がり、この不動産の会社さえも私に譲渡しようとしてくれた、その叔父を退職という形で、結局は裏切ってしまった。私は、罪深い人間だ。叔父の悲しそうな顔がいつも私の脳裏を離れない。

だが、「盗人にも三分の理」という諺がある。

私がどうして叔父の不動産会社に入社したのか、そしてどうして辞めたのか、その辺りの心の変遷を記してみたい。

美咲ちゃんが東京の大学に行くため上京するという前の日に、私と美咲ちゃんは銚子電鉄君ヶ浜駅で待ち合わせた。君ヶ浜駅から名の知れた「君ヶ浜 しおさい公園」までは徒歩5分と近い。

この浜は、日本の渚100選にも選ばれた銚子の名所だ。犬吠埼に隣接した約1kmの海岸線であり、白砂青松の浜を歩き、沖を航行する白い大型船と共に太平洋の彼方までが眺望出来る。

私と美咲ちゃんは、白い波が騒ぐ少し先までも透きとおった美しい海岸線を犬吠埼に向かって歩いた。犬吠埼の灯台は誇らしげに、緑の丘の上で空に向かってそびえている。

「もう、明日は美咲ちゃん、明日からは東京の人になっちゃうの?

今度は、いつ帰って来るの?」

私は、いつもと違いソワソワしている。当たり前だ。目の前にいる美咲ちゃんが、明日からこの銚子からいなくなってしまうのだ。会いたくなっても「今から銚子電鉄○○駅で逢わない?」などと気軽に声を掛けることが出来なくなってしまうのだ。

美咲ちゃんは、微笑んでいる。一生懸命に受験勉強をし、競争率の高い、どうしても入りたいと望んだ大学に見事合格したのだ。その心は弾んでいた。美咲ちゃんの胸の中は、明るい未来への希望で溢れている。

「翔ちゃん、何を心配しているの?銚子と東京なんて、目と鼻の先じゃないの?」

そう言いながらも、美咲ちゃんの表情は、明日からの新生活への期待と喜びとでいっぱいの様子だった。

「もう、アパートの準備はすっかり大丈夫なの?」

そういうと、これまでの経緯を話してくれた。

~合格後のアパート探し~

美咲ちゃんは、高校の卒業式も終えると、アパート探しを母親と共にした。大学の寮が一番よいのだが、この大学には寮がないのだという。

美咲ちゃんはなるべく親に負担をかけまいと、大学から1時間以内の出来るだけ安いアパートを探した。母親は、「あんまり家賃なんか気にしなくても大丈夫だから」とは言ってくれた。だが、少しして続けて言った。

「そうだね。大学からあまり近いと、美咲に仲間が出来てから、たまり場になってしまっても困るしね」

きっとアパート探しをしたことがある方なら、ご存じと思うが、とても厄介だ。見た目が綺麗でも隣りの住人の声が筒抜けだったりすることがある。ましてや、暗くなってからの見学だった場合には日が当たらなのに気付かなかったということもあり得る。

今回の不動産屋は都内各地に支店を持っており、その関係で思いの他早く美咲ちゃんの気に入った部屋を見つけることが出来たのだったらしい。

アパートは、北千住の荒川に近い築30年は超えている木造の建物だった。この古いアパートから、大学までは徒歩の時間を含めても50分も掛からない。恵まれている方だと美咲ちゃんは思った。

6畳一間に3畳のキッチン、それにお風呂とトイレと洗濯機の置き場がある。築年数の経った部屋にしては小奇麗だった。

不動産屋の白髪交じりの年配の営業マンの話しでは、このアパートは女性だけに貸しているとのことだった。そのこともあり、母親も安心してくれた。

「まぁ、美咲ちゃんの、狭いながらも楽しい我が家がやっと決まったようね!」

アパート探しの次は、電化製品の購入となる。この時期の電気屋さんには、学生用に「何点セット格安」とかの広告がやたらと目に付いたそうだ。たった一人での生活でも、そのために必要な物は数え切れない。下手をしたら、半年分の学費にも匹敵するような金額になってしまうそうだ。細かいことを言うと、茶碗や湯呑茶碗まで揃えなければならないのだ。

大学はJR有楽町駅から近く、浜離宮や築地市場、また築地本願寺までも近くとのことだ。 ~

私は東京の地理に疎い。美咲ちゃんの大学が何処にあり、アパートがどの辺りなのか想像すらできない。

彼女は、入学式の3日前から大学からやや遠いアパートに移り住むとのことだった。それが明日だ。

もう明日からは、お互いに別々な道を歩くことになる。私は美咲ちゃんから、将来に向けての確固たる愛の証明が欲しかった。

そんなことを考えていると、ふいに大きな波が押し寄せ、私は美咲ちゃんを庇おうとして、砂浜に美咲ちゃんと共に倒れ込んだ。

私の顔と美咲ちゃんとのそれとが、それこそ目と鼻の先である。

私は、美咲ちゃんの瞳をみつめながら、そっと口づけをしようとした。もちろん初めてだった。

私には自信があった。美咲ちゃんは、断らないだろう。きっと、離れたくないと私に抱き付き、大粒の涙を流すことだろう!

私が、美咲ちゃんの紅の唇に触れようとした時だった。美咲ちゃんは、ふいに右手で私の唇を覆い、小さいけれどはっきりした口調で言った。

「翔ちゃん、今は大学での勉強に集中したいの。翔ちゃんは大好きだけど、今、翔ちゃんの求めに応じたら、女の私は翔ちゃんだけしか見えなくなってしまう。ごめんね。今は、将来、私の目指す養護教諭になることだけを考えたいの。

私、翔ちゃんとはずっと一緒にいたいと思っている。だから、私が夢を実現できる見通しが立つまで、それまでは私の我儘を許して欲しいの」

美咲ちゃんの目は真剣だった。その澄んだ瞳は、少しも揺るがず私を刺すように見つめている。

私は、美咲ちゃんの腕を優しく抱えて、立ち上がった。

私は、美咲ちゃんの言ったことばの意味を考えていた。確かに、夢を実現したいという美咲ちゃんの言うことは痛いほど分かる。だが、美咲ちゃんの夢の実現のためには、この私は必要ないのか?いや、それどころか足手まといになると言うのか?

男の私には、美咲ちゃんの心が理解できなかった。

気まずい雰囲気のまま歩いた。海と青い空と犬吠埼の美しい灯台が醸し出す1枚の絵画も、私の目には写らなかった。

その日は、銚子電鉄君ヶ浜駅にちょうど昼頃に着いた。

「美咲ちゃん、お腹が空かない? 少し戻ると美味しそうなお蕎麦屋さんがさっきあったけど、どう食べて帰らない?」

私のことばに美咲ちゃんは首を横に振った。

「翔ちゃん、今日は私が外川駅まで送るわ。まだ、河津桜は咲いてるかしら?」

前に外川駅で待ち合わせた時の満開の河津桜を思い出しているようだった。

いつもは私が送るのだけれど、美咲ちゃんは外川駅構内の河津桜が見たそうだった。

銚子電鉄外川駅の改札を出て、河津桜に歩いて行くと、既に河津桜の花びらの面影はなく、新緑の季節へと移り変わったことを示していた。

外川駅で私は右手を出して、握手を求めた。今度は、美咲ちゃんは憚ることなく私の手を握った。

「さっきは、ごめんなさいね。きっと、夢が実現出来そうになったら、ッね。翔ちゃん」

美咲ちゃんは、私と繋いだ手に少し力を入れた。

発車の時間が来て、ドアが閉まった。美咲ちゃんは、私に向かって大きく手を振った。私も負けずに大きく手を振って叫んだ。

「また、帰って来てね~!げんきでね~!」

私は、電車が見えなくなるまで見送った。

やがて姿が見えなくなると、私は力なく帰途に就いた。

美咲ちゃんと銚子電鉄外川駅で別れた次の日は、私は兄の漁船に乗っていた。実は、卒業式の翌日からすでに兄の漁船に乗っていたのだった。

キンメダイ漁は、年中可能だ。だが、幾らでも釣って良いというものではない。キンメダイ漁を次世代に繋げるという意味から、一日使う仕掛けは60針までと決まっている。1日に釣ることが出来る数は、最大でも60匹ということになる。

今までの学校生活は、朝は7時に起き、朝食を急いで済ませて学校に向かったものだった。夜も10時や11時まで夜更かしをしても平気だった。

だが、キンメダイ漁の仕事に就いたとたん、私の生活はまるで一変した。

キンメダイの漁場は、外川漁港からおよそ2時間の距離にあり、水深は300mから500mの海域にある。そこは冷たい親潮と暖かい黒潮とがぶつかり合う、餌が豊富な漁場だ。脂が乗り、身が引き締まったキンメダイが育つ。

兄と私のキンメダイ漁の1日を記すと以下のようになる。

深夜の12時頃、外川漁港を出港する。

東南の方向に約2時間かけて船を走らせ、やっと漁場に着く。そこには、同じ漁港の仲間の船で一杯だ。漁が始まるのは、辺りがほんの少し明るみ始め

る頃なので、それまでにパンやお握りなどで腹ごしらえをしておく。

キンメダイを釣るための主な餌はスルメイカで、刺身にしても食べられる程新鮮だ。この急速凍結イカを短冊に切って針につける。この作業は、前日までに準備しておく。

釣り上げたキンメダイは一匹一匹、手で丁寧に針から外す。

釣り上げたばかりのキンメダイは、まだお腹が銀色をしている。これをすぐに氷水でしめて鮮度落ちを防ぐ。このまま鮮度を保っておくと、徐々に体全体が鮮やかな赤に染まる。

全ての仕掛けを上げ終わり外川漁港に戻るのは8時頃になる。

8時半頃には、とれたての新鮮なキンメダイを市場に運ぶ。短時間で大きさなどを選別することができる機械があるので、より鮮度の高いキンメダイを消費者に届けることが出来る。

入札が終わると船に戻って、氷を積んだり、仕掛けを作ったり、餌の準備など翌日の漁の準備をし、やっと昼ご飯を食べることが出来る。この時には、もう昼近くになっている。

仮眠をして、夕方前に起きて残った仕事を片付ける。

夕食を食べた後は、深夜0時の出港に備えて7時頃には就寝する。

私は、兄と共にキンメダイ漁に出て、まだひと月も経っていない。7時過ぎに布団に入っても眠りに就くことは出来ない。当然、漁のため11時過ぎに起越されるが、眠さに勝てない。漁では、兄の足手まといになるばかりだった。情けなかった。何か大きな自信が揺らいでしまった。

幼い日から何度も兄と共に父の船に乗せられた。深夜の船の中では、寝袋の中で夢を見ていた。だが、いきなり父に揺り起こされる。キンメダイ漁が始まるからだ。私と兄は、波の入らない船の隅で、目をこすりながら、父の鮮やかな手さばきを見ていた。

その父親の凛とした姿は、幼い心にも偉大に感じられた。憧れを抱くには充分過ぎた。父を超えるキンメダイ漁の漁師になって見せる!私と兄は、言葉を交わさずとも同じ想いだったに違いない。

だが、その誓いもあまりに早いうちに脆くも崩れそうだ。

何度も誓ったあの私の強い想いは何処へ行ってしまったのか?

将来、もし美咲ちゃんと一緒になったら、美咲ちゃんにもこの生活を強いることになるのか?

美咲ちゃんには「養護教諭」という人生を掛けた仕事の夢を持っている。

このままキンメダイ漁を続けることが正しい選択なのか?私は、なんだか自信を失ってしまった。

私はキンメダイ漁を諦めて、美咲ちゃんのいる東京に行きたくなってしまった。東京には叔父がいる。父の弟が不動産会社を経営している。私は、その不動産の会社で働きたいと思うようになった。美咲ちゃんがいる東京なら、美咲ちゃんにいつでも逢えるに違いない。

それから間もなくして私は父と兄に向かい、キンメダイ漁の漁師を辞めたいと懇願した。 つづく

     ※銚子電鉄君ヶ浜駅の画像は、ウィキペディア様より拝借致しました。

原料香月の作詞の小部屋 お問い合わせ


ブログカテゴリー

月別アーカイブ

ページトップへ