課題テーマに挑戦「銚子港」第16回
2023年09月18日
課題テーマに挑戦「銚子港」第16回
つくば市の午前9時現在の気温は29℃です。午後1時頃は33℃との予想です。
本日早朝、ブログをアップしようと思いましたが、載せる画像がないことに気付きました。近所を散歩しながら、花や景色などを探そうと思い立ちました。
この夏は余りの暑さに家庭菜園の出来も良くなく、そのせいかあまり綺麗な花を見かけなかったような気がします。
少し歩いた先に、民家の庭にみかんの木が見えました。近づいてみると、枝には緑色をしたみかんが沢山なっていました。晩秋の頃には美しい黄色の実に熟れることでしょう。今年の酷暑に良く耐えたと、その生命力に頭が下がる思いでした。
それから、また歩き続けるとケイトウの花が咲いていました。ケイトウは寒さに弱い花だそうですが、暑さには強い花なのでしょうか?
私が住む家は、つくば市の中心から北へ約12キロの距離にある、昔からの農村地帯です。この時期の耕作地は、夏野菜から冬野菜へと姿を変えていきます。
まだポットから植え替えられたばかりの白菜です。暮れの頃には、鍋の主役になることでしょう。本来なら後方にそびえ立つ筈の筑波山は雲に隠れています。
この耕作地は少し前までは加工用のトマト畑でした。今は植えられたキャベツが少し成長しました。
最後の画像です。この白い花は「ニラ」の花です。とてもキレイな花です。
物語 想い出の銚子電鉄外川駅(第9話)
【由香里さんと山手線に乗る】
渋谷由香里とは、蒲田駅東口で10時に待ち合わせをした。
8時頃目が覚めた私は、冷蔵庫から牛乳を取り出し菓子パンでの朝食を済ませた。他にすることがなかった私は、待ち合わせの時間よりも大分早く着いて、辺りをウロウロしていた。
渋谷由香里は10時より数分遅れてやって来た。小さな花模様の付いたパステルブルーのワンピースを身にまとっていた。決して高級そうではないけれど、でも渋谷由香里らしい若さが溢れた装いだった。腕には、少し小さめのハンドバックを下げていた。
私に気が付くと、すぐ側まで近づいて頭を下げながら言った。
「お早うございます。今日はよろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をされた私は、一緒に頭を下げた。
「あのう、私、昨日東京を案内させて欲しいなんて、急に言い出してしまい、家に帰ってからご迷惑ではなかったかと心配しました。今日は、約束通りに来ていただき本当にありがとうございます」
渋谷由香里は、私の顔をすまなそうに見つめて言った。
「いや、銚子しか知らない田舎者ですので、これから不動産の仕事をしていく上で、どうしても東京の地理を早く知る必要があると思っていました。こちらこそ、ありがとうございます」
私の言葉に安心したのか、渋谷由香里の顔が笑顔に変わった。
「それでは生意気ですが、今日はご一緒に、先ず山手線で都心を一周したいと思います。『山手線』と書いて、人は『やまてせん』とか『やまのてせん』とか呼んでいますが、正しくは『やまのてせん』だそうです。『やまてせん』と表示された時代もあったそうですが、今の正しい呼び方は『やまのてせん』とのことです。
正直、今回、宮内さんを案内するにあたって調べて初めて知りました。恥ずかしいです」
そう言って渋谷由香里は舌を少しペロリと出した。渋谷由香里の表情は愛くるしい。昨日、私とお友達になって欲しいと言い、私がよろしくお願いしますと答えた時に、渋谷由香里は不思議なことに涙を流した。今のこの明るい渋谷由香里に、涙は似合わない。あの涙は何だったのだろうか?
蒲田駅の4番線ホームで二人肩を並べて待つと、間もなく品川・東京方面行の電車が滑り込んできた。車内は空いていた。二人はドアの傍の席に並んで座った。この時、私は彼女の髪の毛が肩よりも下がっているのに初めて気が付いた。黒髪から、微かに甘い匂いがした。
「山手線は内回りと外回りがありますが、今日は内回りに乗り、駅名を見ながら都心を回ってみましょうね。一度に覚える必要はありませんから、旅行のつもりで楽しく回りましょうね」
電車が動き出すと、渋谷由香里は笑顔を私に向けて言った。だが、私には内回りも外回りも分からない。私の表情を察した渋谷由香里はやさしく言った。
「ここから、今乗っている京浜東北線で品川駅まで行きます。そこから山手線に乗るんですけど、この山手線は都心をぐるっと回っている電車なんです。時計回りに走るのが外回りで、その反対に走るのが内回りと覚えておいてくださいね」
私は内ポケットから手帳を取り出し、電車が止まるたびに駅名を記入した。最初に蒲田駅名を書き、続いて大森駅・大井町駅と二つの駅名を書いたらもう品川駅だった。
「宮内さん、さあ~ここ品川駅から反時計回りに都心を回ります。気楽に楽しみましょうね」
渋谷由香里は、東京方面行のホームに私を誘導しながら言った。間もなく到着した山手線の座席に彼女の後に続いて私は座った。もちろん隣同士だった。
私は自分の心が妙に変化していくのが分かった。私はここまで渋谷由香里と呼び捨てにして話しをしてきたが、呼び捨てにすることに躊躇する気になった。これから、由香里さんと呼ぶことに決めた。
電車が動き出すと由香里さんはバックから何やら取り出して私に見せた。それは、東京都心の地図だった。中心に山手線が丸い輪になって描かれており、その丸い輪の外に数多くの駅名が記されていた。品川駅を探した。直ぐ分かった。なので、次の駅名がすぐ分かる。他の鉄道路線も載っている。また○○通りと言うような国道も色分けしてある。由香里さんが私のために苦労して探したものだと分かった。私はその思いやりが嬉しかった。
由香里さんは、私がその地図が充分見えるように、二人の丁度真ん中に広げてくれた。肩と肩とが触れ合った。
「ねっ、今、品川駅でしょ!時計と反対周りだから、次は田町駅。都市ガスが入った丸い大きなガスタンクが見えますよ。あっ そうそう、まだ詳しいことは分かりませんが、将来、品川駅と田町駅の間に新しい駅が出来るという噂もあるみたいです」
地図を見ながら感心している私の顔を覗き込む、由香里さんのその若い笑顔は、私にはとても眩しかった。とても爽やか笑顔だ。
こうして各駅に着くたびに地図とにらめっこをしながら、山手線の駅名を私は声を出さずに空で唱えた。由香里さんはバックからメモ帳を取り出して、それを見ながら各駅毎に簡単な謂れなどを話してくれた。私のために準備してくれたのだと鈍感な私にも分かった。東京駅では何故か気分が高揚した。田舎育ちの私は東京駅と聞くだけで心が躍ったのだった。
各駅の謂れの中でも、特に印象に残ったのは神田の本屋さん、また高田馬場の決闘の話し、それに巣鴨のとげぬき地蔵尊、渋谷の忠犬ハチ公などだ。だが、それだけではない。由香里さんはまだ10代だし、落語に詳しいとは思えない。「目黒のさんま」でも、たんたんとメモを読んでくれたのだが、それでも私は少し声を出して笑ってまった。
私の笑う姿に、由香里さんも嬉しそうだった。由香里さんは、私のためにきっと昨夜は遅くまで調べてくれたのだろう。
元の品川駅には、もう一周したのかと思われるほど早く着いたのにはビックリした。品川駅を山手線が出発する際に見た腕時計は、10時30分を指していた。今、時計を見ると11時37分だった。一周65分位程度か?私が驚いたのは、駅の数は30に近いが、駅間の距離が非常に短いことだった。.
品川駅に着いて、ホームを歩きながら由香里さんが言った。
「宮内さん、どうでした?少しは東京の都心の駅名を覚えました?この地図は、宮内さんのために買った物ですから、どうぞ使ってくださいね」
由香里さんはそう言いながら、地図を私に差し出した。受け取って良いものか一瞬迷ったが、好意を受け入れることにした。肝心な駅名を私は幾つ覚えたことだろう?銚子とはまるで違う大都会の姿を車窓から見た私は、途中駅名を確認することを幾つか忘れた。
私はお礼を言い、また時計に目をやった。もう昼に近い。流石に由香里さんは機転の利く人だ。
「宮内さん、お昼は何を食べましょうか?」
由香里さんは、微笑みながら私の顔を見つめて言った。慌てた私は、とっさに言った。
「私は銚子の漁師の息子です。この東京で、何を食べたいかと聞かれても返事のしようがありません。私は銚子では、かつ丼とかカレーライスしか食べたことがありません。あと、ラーメンとか」
由香里さんは、私の答えに満足してくれたのか、思いのほか喜んでくれた。
「まあ 良かったわ!ステーキとかをお洒落なレストランで食べたいなんて言われたらどうしようかとドキドキしていました。私も同じと言ったら失礼かも知れませんが、裕福な家庭で育ったわけではありませんので、高級なお店など行ったことがありません」
由香里さんは安堵の表情を浮かべながら、嬉しそうに言った。少し間を置き、由香里さんが提案した。
「ねえ 宮内さん。これから宮内さんの地元となる蒲田の商店街を歩き、そこで何か食べませんか?」
私は即座に賛成した。商店街の様子を知り、お店の方々とも親しくなっておくことは、大切な仕事のうちではないか!きっと、役に立つに違いない。そう思った。
そうして、品川駅からまた蒲田駅に向かう京浜東北線に乗った。蒲田駅の東西に商店街はあった。由香里さんは、会社に近い方の商店街、即ち蒲田東口商店街を勧めてくれた。やはり、近場から知ることが大切だと私も思った。
蒲田駅から、蒲田東口商店街は近かった。ブティックやインテリアのお店、またコンビニや薬局、パチンコ店、カラオケ店、ゲームセンターなどが目立った。周りに目を配りながら、ゆっくり由香里さんと歩いた。もう昼の時間はとっくに過ぎている。
裏通りを歩くと、飲食店が目立った。私はお腹を空かせながら、由香里さんと一緒に食べる料理には何が相応しいだろうかと考ながら歩いた。
「ここにしませんか?」
ふいに由香里さんは洋食の店の前で立ち止まり、指を指しながら言った。
小奇麗な感じの店だった。
店内はカウンター席が5~6席と、4人掛けのテーブル席が二つだけの小さな店だった。店主が愛想良く出て来て、お冷をテーブルに置きながら言った。
「ご注文が決ましましたら、お声を掛けて下さいね」
店内には、何人かの独身者と思われる客がカウンター席で麺をすすっていた。二人がメニューを見ながら、暫らく決めかねていると、由香里さんは決まったらしく手を挙げながら言った。
「私、ハンバーグ定食を頂きます。宮内さんは、何になさいますか?」
私は直ぐ「同じにします」と言い、店主に向かって「すみませ~ん」と少し大きな声で呼んだ。
暫くしてハンバーグ定食が運ばれてきた。付け合わせには、ポテトサラダとブロッコリーが乗っていた。
不思議なことに、由香里さんは割り箸を割ると、ハンバーグを二つに切り分けた。
私は朝食が菓子パンと牛乳だけだった。そのせいか、ここのハンバーグが妙にうまかった。由香里さんを見ると私と同じように美味しそうに食べていた。私が食べ終わると、由香里さんが半分に切り分けたハンバーグの皿を私に寄せて言った。
「あのう、私には量が多すぎて食べきれません。先程、箸を付ける前に切り分けしたので、汚くはありません。どうか、食べて頂けませんか?」
私は、遠慮せずに頂くことにした。まだ、私の胃袋には余裕があったのは確かだけれど、由香里さんの好意が嬉しかった。何故か、二人の距離が縮まったような気がした。私は、この時美咲ちゃんの事を忘れていた。
食べ終わった私と由香里さんはコップの水を飲みながら、少しの間食後の休憩を取った。一段落した頃に私は由香里さんに目で合図をし、レジに向かった。私は財布を取り出し、二人分の会計を済ませようとした。その時、由香里さんは私の手から伝票をさりげなく奪い、恥ずかしそうに言った。
「宮内さん、僅かひと月ですが、宮内不動産では私の方が先輩です。ですので、私に払わせてくださいね」
店主の目の前で伝票を奪い合うのも恥ずかしかったので、由香里さんの提案を私は受け入れることにした。お腹が一杯になった私は、少しゆっくりしたかったので、コーヒーに由香里さんを誘うとニッコリして頷いた。商店街に出ると喫茶店は直ぐに見つかった。銚子育ちの私にはカフェとかの言葉は気恥ずかしくて使えない。
その店は2階にあり、階段を登る前にワンピース姿の由香里さんを先に上がらせてはいけないと思った私は、先に階段を登った。2階のお店に入ると、広い店内には数組のカップルが談笑していた。
「渋谷さん、今日はありがとうございました。お陰様で、東京の地理が少し分かったような気がします。それに、さっきは私がお礼にご馳走しなければいけなかったのに、すみませんでした」
由香里さんは、首を振って笑った。私は少し緊張して話題を探した。
「渋谷さんは、何人きょうだいですか?」
私が尋ねると由香里さんは、はにかみながら返事をしてくれた。
「私には中学生の弟がいます。ですので、二人姉弟です。宮内さんは?」
すかさず由香里さんは聞き返してきた。私が兄と二人兄弟であることを告げると、今度は「ご両親はお元気のことと思います。羨ましいです」と由香里さんは下を向いて小さな声で言った。
私は、えっ?と一瞬耳を疑った。聞き間違いか?
「どういうことですか?ご両親はお元気ではないんですか?」
私の質問に由香里さんは急に涙目になった。
「母を私は中学生の時に病気で亡くしました。悪性の病気で、病院に行った時には手遅れだったと後から父に聞きました」
由香里さんの目から涙が溢れて頬を伝わった。私は悪いことを聞いてしまったと後悔した。どうしたら良いのか、私の頭の中はパニックになってしまった。私は、ポケットからハンカチを取り出し、由香里さんに渡したまま、しばらくそのままで固まっていた。
やがて我に返った私は思った。私には生涯の伴侶と決めた人がいる。美咲ちゃんがいる。彼女以外の女性を私が好きになったり、恋したりすることなどあり得ない。許されることではない。
だがこの時、由香里さんへの旺盛な好奇心が私の心の中に湧き上がった。 つづく