小鳥

ブログ

課題テーマに挑戦「銚子港」第20回

2023年11月30日

 課題テーマに挑戦「銚子港」第20回

今日は11月30日、明日から師走です。何と今年も残すところひと月となってしまいました。

皆さんは、この一年を振り返って、如何だったでしょうか?充実した一年だったでしょうか?私事ですが、本当に楽しいことが沢山ありました。ですが、親しい方との悲しい永久の別れもありました。生きとし生けるもの、いつかは滅びる定めにあります。悔いのないよう大切な人に真心を尽くしたいと思います。

先日、鹿島神宮に出掛ける機会がありました。その時はちょうど「鹿島市 菊花展」が開催されておりました。

私には、菊の花を評価する能力はありませんが、一輪一輪丹精込めて育てられたのだと感動します。

 

日夜、我が子を育てるような愛を注がれた事でしょう。

 

見事としか言いようのない美しさです。

 

先日、散歩をしていた折に近所で撮った紅葉です。

 

アイキャッチ画像は、近くのイチョウ並木を車で走っている時に、つい停車して撮りました。

  物語 想い出の銚子電鉄外川駅(第13話)

【美咲ちゃんカレーを作る】 

洗足池の件から、私と美咲ちゃんの距離がずっと近くなった気がする。だが、そう思っても頻繁に連絡すると嫌われそうで、小心者の私は電話することが出来ない。

もちろん私は仕事を頑張っているが、何もしていない時はいつも美咲ちゃんの事で頭が一杯だ。今ごろ、どうしているのだろうか?いつも気になって仕方がない。

あれから、1週間も過ぎただろうか?私は待ち切れなくなって遅い時間だったけれど、アパートの自室に帰って直ぐに美咲ちゃんの携帯に電話をかけた。

呼び出し音が鳴ったと同時に、美咲ちゃんは小さな声で言った。

「ごめん。今、ナイトフレンドというサークルで、入院中の小学2年生の女の子を寝かしつけている途中なの。だから、後から電話するわ。9時は過ぎてしまうと思うけど」

私は、ただ「分かった」と小さな声で返事をして電話を切った。もう少し、嬉しそうな、弾んだ声が聴こえてくるものだと勝手に思い込んでいたものだから、何だか気が抜けてしまった。しばらくぼうっとしていたが、私はまだ夕飯を食べていないことに気が付いて夕食を作ることにした。

冷蔵庫を開けると、豆腐・納豆・卵、ハム、それにキャベツと玉ねぎが入っていた。キャベツの葉は、表面の葉が傷んでいた。タッパーにはご飯が入っていたけど、日付を記入するのを忘れ、いつのご飯か自信がなかったが、確か昨日の朝だった気がする。

「まあ、今夜はあるもので何か作って食べよう」

偉そうに独り言を言ってはみたものの、料理は殆んど出来ない。外食が多いのだけれど、時々は銚子の母が作っていたのを思い出して適当に作って食べている。自分で作ったものだから我慢して食べてはいるがとても不味い。

私は1枚目のキャベツの葉を捨てて、2枚目の葉を剥ぎ軽く水道水で洗うと小さめにザクザク切った。玉ねぎは半分をスライスにしてから角切りにした。ハムも四角に切った。フライパンを温めてからコーン油を小さじ1杯くらい入れ、熱した頃に玉ねぎとキャベツを入れた。焦げないように菜箸でかき回し、胡椒を2~3回振りかけ、それからハムを入れた。

私は何を作ろうとしていたのか?今になってやっとそれが分かった。常道を外したチャーハンだ。ハムにも火が通ったころに卵を入れ、砂糖少々、塩を指で軽く摘まみ入れた。またみりんと醤油をほんの少々入れ、そこでいったん火を止め、タッパーのご飯を入れてしゃもじでかき混ぜた。今度は強火で火を通した。プロの真似をして、フライパンを高く上げて、かき混ぜようとして、ご飯をこぼした。情けなかった。

出来上がったチャーハンは、キャベツの水分でべたべたして、いつものように正直美味しくなかった。

私は自炊を始めてまだ間もない。最初は炊き上げたご飯に納豆か豆腐、それに朝鮮漬け等で食べていた。それも飽きた今、正直、何も出来ない。以前、美咲ちゃんが言っていた。同じアパートで親しくなった小野裕子さんは自炊にまだ慣れない頃に総菜を作っては、美咲ちゃんに試食して欲しいと持ち込んでいたらしい。

私も美咲ちゃんに食べて貰い、味付けを教わりたい。いや、それ以前の問題だ。料理の献立が幾つかでも知りたい!私と美咲ちゃんは恋人同士だ。このアパートに来て教えて貰おう。美咲ちゃんは断らない筈だ。

その晩の10時頃になって、やっと待ちに待った美咲ちゃんからの電話が入った。

「さっきはごめんね。今、やっと寝かしつけた女の子のお母さんはシングルマザーなの。女の子の下に病弱の幼い男の子がいて病院には時々しか来られないんだって。女の子はいつも寂しそうで私が行くと甘えてくれるの。とっても可愛いわよ。いつもなら携帯の電源を切るんだけど、今日は忘れちゃって。基本中の基本を忘れて、サークルの仲間には恥ずかしくてとても言えないわ。ところで、何か用があったの?」

私は、また気持ちが萎えた。用がなくても電話するのが恋人同士ではないか!声を聴きたくなるし、どうしているのかも知りたい!

「いや、別に用はないけど・・・」

私は返事に困って、ぼそっと呟いた。

「何よ!元気がないわね。この前の洗足池のデート、楽しかったわ!また、デートしましょうね。どこにする?私は、これから水曜日は予定を入れないようにするから、午後3時過ぎなら多分いつでも大丈夫よ」

美咲ちゃんの言葉に、単純な私は直ぐ元気になった。

「今夜、チャーハンを作って食べたんだけど、本当に不味かった。でも、無理して食べたけど。今度の水曜日に僕のアパートに来て何か料理を教えてくれないかな?」

美咲ちゃんは意外なことに、待ってましたとばかりの返事をしてくれた。

「翔ちゃんは、外食ばかりしているのかと思っていたけど、たまには作るんだ?感心、感心!分かったわ。じぁあ、来週の水曜日に蒲田駅に四時頃行くから、東口で待っててくれる?駅から、翔ちゃんのいつも買い物をする商店街に行き、食材を買いましょうね。でも、まずは何を作るかだけど、『美咲シェフ料理教室』栄えある第1回目は、誰もが好きなカレーライスにしましょう!

こう見えても、私は料理が得意なのよ。将来、私を奥さんにすると毎日美味しい料理が食べられるわよ!おすすめよ!」

今夜の美咲ちゃんは、饒舌だ。私は、嬉しくもあり、可笑しくもありで幸せな気分になった。

最初はやはりカレーライスが良い。何歳になっても飽きることがない。そうだ!美咲ちゃんには、時々アパートに来てもらい、その度に新しいメニューを教えて貰おう。そうしよう!

美咲ちゃんに提案すると美咲ちゃんは弾んだ声で答えてくれた。

「よしよし、私に任せなさい!そして私を奥さんにしなさい!ちゃんと教えてあげるから、結婚してからも続けるのよ!」

えっ、これってもう既に尻に敷かれているってこと!私は、嬉しさよりも、少し怖くなった。

次の週の水曜日、四時丁度に美咲ちゃんは蒲田駅東口に現れた。私と美咲ちゃんは、東口商店街に手を繋いで向かった。美咲ちゃんは普段着のようだったが、口紅を塗った美咲ちゃんはやはり少し大人っぽくて可愛い。

商店街では、手前の八百屋さんから買い物をした。美咲ちゃんは、じゃがいも・人参・玉ねぎを少し多いのではと思うくらい沢山買った。良く分からないのだが、生姜とニンニクも少しだけ買った。またレタスとネギも買った。レタスは普段野菜を食べない私への心遣いか、和風ドレッシングも同時に買った。ネギは、みそ汁やうどん、またラーメンにも使える。用途の多い使い勝手の良い野菜とのこと。

驚いたことに、リンゴジュースも買った。

私は美咲ちゃんの後をついて、次に肉屋さんに寄った。

「すみません。カレー用豚肉を200グラム頂きたいのですが。あと、カレー用のルーはありますか?中辛ひと箱お願いします。それから、バターを小さ目の物を一つお願いします」

こうして今夜の献立のカレーの食材を求めた私と美咲ちゃんは、私のアパートに向かった。たかがカレーを作るのに、こうも面倒とは知らなかった。

私のアパートに着いた美咲ちゃんは、部屋に入る前に一瞬ためらうような素振りをしたが、ニコニコしながら、靴を脱いでさっそく持って来たエプロンを首に掛けた。

私は、先日の洗足池での口づけを思い出し、美咲ちゃんの目を見つめながら、両手で優しく抱きしめた。美咲ちゃんは、黙って私の胸の中で目を閉じた。私はやさしく唇を合わせた。ずっとそうしていたかったが、しばらくしてから美咲ちゃんは私から顔を離して言った。

「遅くなるから、さっそくカレーを作りましょうね。今日のカレーはね、翔ちゃんでも簡単に作れるように、市販のカレールーを使ったカレーよ。一度で覚えて頂戴ね」

私は美咲ちゃんを抱いた両腕を離した。私はまだ美咲ちゃんを抱きしめていたかった。

私から離れた美咲ちゃんは、台所の鍋やフライパン、また調味料などを確認してから言った。

「翔ちゃん、男の人の部屋だから、部屋も台所も汚いかと思っていたけど、結構きれいにしているのね。感心だわ。それから将来のために、これから料理をしっかり覚えてちょうだいね」

やさしい言い方をしているが、どうやら美咲ちゃんは私を尻に敷こうと考えているようだ。いつの時代からだろうか?女性が強くなり、男は女性の言いなりになったのは?でも、軟弱な私は、美咲ちゃんのお尻に敷かれようが、そんなことはどうでも構わない。大好きな美咲ちゃんの為なら何でもする。

美咲ちゃんはカレーを作る前に、流しの傍に置いてあったビニールに入った米袋から2合ほど米を取り出し、炊飯用の窯の中で素早く研ぎ、水を注いで米を浸した。

さていよいよカレー作りだ。美咲ちゃんはフライパンにバターを溶かし、薄くスライスに切った玉ねぎと小さく切った生姜とニンニクとを中火で炒め、15分くらいして飴色になってから鍋にあけた。

今度は、ボウルの中の肉に塩コショウをし、もみ込んだ。

それから美咲ちゃんは、私の粗末な包丁で、あっという間にじゃがいもやニンジン等をきれいに剥き、適度な大きさに切り分けた。

更に、先ほど使ったフライパンを素早く洗い、少量の油をひきボウルの中の肉を並べて焼いて表面に焼き色を付けた。その中に人参を入れ炒め合わせた。

美咲ちゃんは思い出したように言った。が、同時に炊飯器のスイッチを入れた。

「翔ちゃん、いきなりで悪いんだけどワインはないかしら?無かったら構わないけど。それからお米はもう少し浸しておいた方が良いけれど、今日は早めだけど今から炊いちゃうね」

私は悪戯で買った安いワインの飲みかけを冷蔵庫の奥から取り出して、美咲ちゃんに渡した。そのワインを、肉と人参の中に振りかけた。それから少しして、肉と人参を鍋に入れた。

鍋に適量の水を入れ煮込んだ。本当は、この時点でローリエ(ハーブ)を入れた方が、風味が増すとのことだが今回はパスした。沸騰したらアクを取り、弱火にして15分ほど煮込む。

やがて、火を止めてルーを入れ混ぜて溶かし、更に弱火で7分ほど煮込んだ。

これが最後の工程とのことで、別に過熱しておいたじゃがいも入れて、更に熱を加えて終了だ。一緒に煮なかったのは、煮崩れすると味が濁ってしまうからとのこと。

こうして美咲ちゃんのカレーは完成した。美咲ちゃんは、炊きあがったご飯を皿によそりながら、私にレクチャーしてくれた。

「カレーは一度にたくさん作った方が美味しいのよ。それはね、材料にゆっくりと長い時間かけて熱が伝わるからなの。具体的には、肉(イノシン酸)と野菜(グルタミン酸)のうまみ成分が溶け出し、合わさってうまみが倍増するからなのよ。

それからね。翔ちゃんは一人暮らしだから、カレーが余ってしまった時は、冷凍保存すればひと月から半年近く食べられるのよ。冷やしてから、ファスナー付保存袋に入れれば大丈夫」

美咲ちゃんは私のカレー皿に、こぼれるほどのご飯とカレーをよそってくれた。

さあ~、やっとカレーが食べられると私は期待に喉を鳴らした。美咲ちゃんを見ると、レタスを剥き水道水で洗い、手でちぎっている。そのレタスも大皿に乗せて、ドレッシングをかけてくれた。

「いただきま~す」

私と美咲ちゃんは両手を合わせてから、食べ始めた。もちろん、カレーをこのアパートで食べるのは初めてだ。銚子の母のカレーライスも美味しかった。カレーの匂いがすると、母にまだかと良く催促したものだった。でも、母には申し訳ないが、美咲ちゃんの作ってくれたカレーの方が断然美味しい。

私は感動して、美咲ちゃんに言った。

「美咲ちゃん、美味しいよ!こんなに美味しいカレーは初めてだよ。じゃがいもが煮崩れてなくて、ぽくぽくしてて美味しいし」

私が、余りに美味しそうに食べていたものだから、美咲ちゃんは少し恥ずかしそうに話し出した。

「本当はね、私も料理には自信がないものだから、週に一度裕子ちゃんと料理の勉強会をしているの。毎回、和洋中と変えてね!すごいでしょ。今日のカレーも、種を明かせば一昨日翔ちゃんのために、一度作ってみたの。」

美咲ちゃんは、私に美味しいカレーを食べさせようと、裕子ちゃんと一緒に試し作りをしていたのだ。私は、その優しさに胸が詰まった。

「翔ちゃん、今思い付いたんだけど。これから毎月、私と裕子ちゃんが勉強会で作った料理を、ここでおさらいも兼ねて作ってあげようか?」

こうして、美咲ちゃんと私は、私のアパートで毎月料理の勉強会を実施することになった。私は、喜んだ。毎月私の部屋で数時間でも美咲ちゃんと一緒に過ごせる。料理の勉強より、美咲ちゃんと一緒にいられることのほうがが嬉しかったのだった。

だが、いつまでも浮かれている場合ではないことを、この時の私は少しも気付いていなかった。つづく

 

※ ナイトフレンドサークル(大学病院小児科病棟の学生ランティアのこと。面会者のいない小児の遊び相手になったり、患者の子どもが寝付くまでベッドの側で付き添ったりする。また、お見舞いに来た小学生以下の子どもは親と一緒でも病室に入れない。そのためロビーで孤独な時間を過ごすことのないように、親の面会が終了するまで一緒に過ごす)

原料香月の作詞の小部屋 お問い合わせ


ブログカテゴリー

月別アーカイブ

ページトップへ