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課題テーマに挑戦「銚子港」第25回

2024年03月31日

 課題テーマに挑戦「銚子港」第25回

古希を数年前に迎えた高齢者としては、血圧や血糖値、またコレステロール等の値は健康診断を受ける際とても気になる項目です。

ここ数日、新聞を始めメディアで騒がれている大きな社会問題の一つが小林製薬の「紅麴」を成分を含む健康食品問題です。この食品を自らの健康維持に役立たせようとして、高額な商品代を何とか捻出された方も多いのではないでしょうか?

この「紅麴」を含んだ健康食品を摂取した人が腎臓病を発症し、5人の死亡者が出る事態となりました。小林製薬は、最初の健康被害の把握から発表まで2ヶ月を要しました。この間にも、摂取し続けた方がいるのを承知で、発表を遅らせたと言われても仕方がないと思います。。

これまでも多くの会社が自社の利益を最優先して、都合の悪いことを隠ぺいした結果、より多くの深刻な被害者を生み、自らは世間の信用を更に落とすという事態を辿って来ました。

消費者のことを真摯に考えて経営をされている多くの会社が、こうした一部の経営者の浅はかな行為により、要らぬ疑いを掛けられるのではと危惧します。戦争も含めて、いつの世になっても人間の精神は進化しないものなのでしょうか?

ここ数日急に春めいて来ました。昨日などは日中は半袖半ズボンでも過ごせる程でした。私の家の庭にも、また散歩中の道端にも沢山の花々が咲き誇っています。

本日は昨日から散歩中に撮った画像をご覧いただけたら嬉しく思います。

最初の一枚目は我が家の裏庭に咲いたフキノトウです。

この花の名を「ハナノナ」はボケと表示されました。

この花はだいこんの花です。

春の到来の代名詞、タンポポです。

もう上野公園にも桜が咲き始めたそうです。楽しみですね。

  物語 想い出の銚子電鉄外川駅 (第18話)

【美咲ちゃん豪州への留学】

翔ちゃんの家は代々外川漁港の漁師だった。外川の漁師たちは丘陵斜面と僅かな平地に密集して暮らしている。決して豊かとは言えないが、それでもみんな助け合いながらも懸命に生きている。

私の祖母が生前、良く言っていた言葉がある。

「月日の経つのが、加齢と主に年々早くなる。辛い冬が終わると、あっという間に春が来て、夏になる。秋が来るとまた一つ年を取る」

縁側で近所のおばあさんとお茶を啜りながら、いつも同じことを言っていたのを翔ちゃんは憶えている。

その時はまだ小学生で、何も感じることはなかった。

だが、二十歳を既に過ぎた今の翔ちゃんには、祖母の考えとはまた別な思いがある。

祖母のような高齢者でも私のようなまだ若輩者でも、歳月の経つ速さには変わりはない。当たり前の話をして恥ずかしいが、一日は24時間、一年の日数は365日だ。誰にも平等に与えられている。特に老人だけが短い訳ではない。

だが、今の翔ちゃんは一日が一時間に、一時間が一分になれば良いと思っている。今のこの瞬間をやり過ごすのが死ぬほど苦痛なのだ。今、この時を生きるのが死にたくなるほどやりきれないのだ。翔ちゃんになにがあったというのか?

人生を知り尽くしたような年配の方が、良く若者にかける言葉がある。

「光陰矢の如し」 「少年老い易く学成り難し」 この二つの言葉だ。

どちらも同じような意味だが、少し違う。「光陰矢の如し」とは昔、唐の時代の詩人である「李益(りえき)という人が『游子吟』という書物の中に記したらしい。簡単に言うと「何もせずに無駄に毎日を消費するのは止めよう」という意味らしい。

一方「人生老い易く学成り難し」は、もう少し意味に深さがあるようだ。やはり発祥は中国のことわざらしい。若いうちは、まだ先があると思い勉学に必死になれないが、あっという間に歳月は過ぎて、結局何も学べずに人生を終わらせてしまうことになる。成就するには、若いうちから勉学に励めとの戒めらしい。

鈍感な私にもその意味くらいは、理解できる。だが、苦しみの中にある若者には青春なんかは要らない! 早咲きのコスモスの花が公園に見られるようになった晩夏の日に、美咲ちゃんはオーストラリアへと留学に行ってしまったのだ。

美咲ちゃんが遥か遠いオーストラリアに行ってしまった!

翔ちゃんと美咲ちゃんは間違いなく恋人同士だった。美咲ちゃんとの甘いくちづけ、そして世界に二人だけの甘美な夜の秘密。あの晩、翔ちゃんと美咲ちゃんは、たった一つしかない翔ちゃんの布団の中で結ばれた筈だった。

美咲ちゃんのオーストラリアへの旅立ちから、もう一週間が過ぎた。翔ちゃんは夢を見る。銚子電鉄外川駅から、外川漁港への風情ある坂道を美咲ちゃんと手を繋ぎ、ふたり満面の笑みで歩く至福の夢だ。だが夢はいつか覚める。

夜中に目覚めた時は、涙が溢れる。朝まで辛い時間を過ごすことになる。

良く新聞などのメディアに出て来る著名人が良く使う台詞がある。

「若いうちは、たくさん苦労をした方が良いんだ。悩みや苦しみが大きい程、人間の器を大きくする。精一杯悩んで、そして苦しみなさい。君は知っているかい?戦国時代の武将・山中鹿之助の『願わくば、我に七難八苦を与えたまへ』と言う言葉の意味を!」

私はこうした如何にも聖人ぶった人が大嫌いだ。こんなことを言う人の言葉は信じない。私の思いはこうだ。

・・・ 美咲ちゃんのいないこの毎日に、何の意味があるというのか!こんな辛く寂しい日々が続くのなら、私には青春なんか要らない。もうたくさんだ!いっそ、タイムマシンで20年後の世界に行ってしまいたい!その時にはこの私にも、誰だかは分からないけれど妻がいて、二人くらいの子どもに囲まれ、平凡な暮らしをしているに違いない!今の苦しみから逃れられるなら、いっそのことその未来にタイムスリップしてしまいたい・・・。

また思い出している。3か月前の美咲ちゃんとの八宝菜作りの夜のことだ。

将来の伴侶と決めた美咲ちゃんが、翔ちゃんの部屋で八宝菜を作ってくれ、翔ちゃんはお腹が一杯になるまで夢中で食べた。缶ビールを三本も飲んだ。

今宵は泊まってくれると言う美咲ちゃんの言葉に、翔ちゃんは喜びに震えた。美咲ちゃんとの甘美なその瞬間を、待ち焦がれた。

翔ちゃんは、その気持ちを抑えきれないままに、美咲ちゃんの隣に座り直し、口づけをしようとした。だが、不思議なことに美咲ちゃんは、翔ちゃんの唇を右手の平で覆った。

確かその時、美咲ちゃんはせっかく買ったワインをほんの少し口にしただけだった。

美咲ちゃんのそんな繊細な姿を、若い健康な肉体を持った翔ちゃんは気付かなかった。

ただ、夢のような、とろけるような想像に舞い上がっていた。

美咲ちゃんも翔ちゃんの男心に気付かず悲しい言葉を翔ちゃんに向かって発したのだった。

「9月からカナダかオーストラリアに海外留学するつもりなの。期間は私の目標とするレベルの語学と専門学を習得するには最低でも2年は必要なの!」

甘美な一夜の空想に胸の高まりを抑えられずにいたこの瞬間にだ。途端に翔ちゃんの体は萎えて、眩暈がした。美咲ちゃんには自分への気遣いが感じらいと悲しくなった。翔ちゃんへの十分な事前の説明も承諾もないまま、海外留学を決めようとしているのだ。

そして美咲ちゃんは、また近いうちに食事を作りに来るねと私の胸の中で囁き、ドアの閉まる音と共に部屋から姿を消してしまったのだった。

それからの数日間は、翔ちゃんの思考は止まった。仕事中は何とか我慢できた。社員や顧客の前では、何とか作り笑顔も見せられた。だが、ひとりアパートに帰ると涙がとめどなく流れた。男でも悲しいものは悲しい。ひとりの時には、自分の心を隠す必要はない。

いくらオーストラリアが遠いと言っても、連絡が出来ない訳ではない。声が聴きたいと思えば、携帯電話がある。翔ちゃんでも国際電話の掛け方くらいは知っている。簡単な操作で美咲ちゃんの携帯電話に直ぐに繋げることが出来る。いつでも声が聴ける。だが、そういうことではないのだ。美咲ちゃんに逢えなくなるのが、それが悲しいのだ。いつも傍にいて欲しい。                        

私の唇を右手の平で覆い「九月からオーストラリアへ留学するつもりなんだけど、どう思う?」と尋ねてドアの向こうに姿を消してから、一週間が過ぎた水曜日の夕方だった。美咲ちゃんからの着信音が鳴った。

「あっ 翔ちゃん。私。この間はごめんね。本当にごめんなさい。この前は、話が途中になってしまったので、明日の夕方にまた逢いたいと思っているんだけど、翔ちゃんの都合はどうかしら?」

翔ちゃんは、美咲ちゃんの声を聞くと、もうすっかり嬉しくなり、今までのしおれた心が水を得た魚のように生き返った。男とは単純な生き物なのだ。

「明日?大丈夫だよ!何時に来られるの?あ~了解。じゃあ、いつもの場所に4時ごろ待っているね」

とたんに翔ちゃんは元気になった。美咲ちゃんは、きっと考えを変えてくれたに違いない。きっと、翔ちゃんと生涯を一緒に暮らすことを決め、海外留学を諦めたに違いない。きっとそうだ。翔ちゃんは、美咲ちゃんと白髪になるまで共に生きる。そして、美咲ちゃんをずっと守って見せる。そう改めて誓った。

蒲田駅東口には20分も早く着いた。早く美咲ちゃんに逢いたい。今度は、自分が美咲ちゃんに話さなければならないことがある。今日こそ、話さなければならないことがある。ずっと、話そうとは思っていた。だが、怖かった。美咲ちゃんの返事が怖くて言い出せずなかった。

美咲ちゃんは、約束の時間より早く現れた。薄緑のワンピースに花柄の模様が入っていて、とても可愛い姿だった。

「翔ちゃん、今日だけ料理教室はやめにして、お惣菜を買って夕飯にしない?」

どうしたのだろう?いつもなら「今日は何を作りたい?」と聞いて来るのに!

蒲田東口商店街にいつものように向かった。翔ちゃんは、どうしてだか美咲ちゃんと手が繋げない。美咲ちゃんとの距離が少し遠くに感じられる。

お惣菜屋さんのお店で、カツ煮と白身魚の南蛮漬け、それにタコと若布の酢のものも買った。

アパートの近い酒屋さんで、翔ちゃんは缶ビールを買ったが、美咲ちゃんはワインもビールも要らないと言う。

一人で飲むのには気が引けたので、翔ちゃんはグラスに少しだけ美咲ちゃん用にビールを注いだ。

「かんぱ~い!」

二人はグラスを合わせたが、何かいつもと違ってぎごちない。美咲ちゃんの声にも張りがない。

翔ちゃんは、今まで言えなかった父と兄との約束を今日こそ美咲ちゃんに話そうと決めていた。美咲ちゃんは、きっと外川で一緒に暮らすと言ってくれるに違いない。大丈夫だ。そう信じている。いや、そう信じたいのだ。

美咲ちゃんがお米を研いでくれた。ご飯が炊きあがるまで、翔ちゃんだけがビールを飲んだ。美咲ちゃんはワインも飲まずに、ただ翔ちゃんの様子を見ている。

翔ちゃんはいつものビールの筈なのに、いつもと味が違うのを感じた。

翔ちゃんは、思い切って美咲ちゃんに尋ねた。

「美咲ちゃん、今日は何か話があって来たんじゃないの?」

美咲ちゃんは、何かもじもじしていて答えない。翔ちゃんは、決心した。自分から切り出そう!

「あのう、ずっと前から、実は美咲ちゃんに話そうと思っていたことがあるんだけど。でも、どうしても言えずに今日まで来てしまった」

美咲ちゃんは、少し俯き加減だった顔を上げて、翔ちゃんを見つめた。

「美咲ちゃん、内緒にしていたことがあるんだ。怖くて言い出せなかった。ごめん、今日こそと思いながら、今まで話せなかった・・・・。でも、もう今日しかないと思っている」

美咲ちゃんは表情を曇らせた。

「正直に話すから、少しの間、僕の言うことを聞いてくれる?その後で、美咲ちゃんの気持ちを聞かせて貰うから」

美咲ちゃんの瞳が潤んで来た。まだ何も話していない。美咲ちゃんは何かとてつもない不安に怯えているようだった。

「美咲ちゃん、実は美咲ちゃんが東京の大学に入り、銚子からいなくなった寂しさから、僕は何とか東京に行くための方法を考えた。方便だ。

その方便とは、3年間だけ東京での暮らしをさせて欲しいと、父と兄に頼んだんだ。そうしたら、父も兄も反対はしなかった。父は、それなら、僕からすると叔父になるけど、その叔父が蒲田で宮内不動産という会社をやっているから、そこで約束の3年間だけ働いたらどうだと言ってくれ、叔父に頼んでくれた。叔父は自分の兄からの頼みなので、簡単に許可してくれた。だが、父は叔父には三年間だけとは言わなかった。兄弟でも、そんな勝手な頼みでは、断られると思ったのだと思う。

この叔父にも近いうちに話さなければならない。もう逃げられない時期に来ている。

だが、もう直ぐオーストラリアに行ってしまうかも知れない美咲ちゃんには、今しかない話す機会はないと思って覚悟を決めたんだ。

美咲ちゃん、ごめん!いつも僕は自分中心に物事を考える人間だ。自分勝手な人間だ。本当なら美咲ちゃんの人生、そして将来を本当は最も優先させなければならないのに!」

上手く説明が出来ない。本心はもっと複雑だった。もちろん、美咲ちゃんのいる東京に行けば、美咲ちゃんに逢えると思ったのは事実だ。そしてその三年間の間に美咲ちゃんと生涯の伴侶として認め合う時間にしたかったのが本音だ。

だが、それだけではない。千葉県最東端の外川でキンメダイ漁の漁師として10代から生きるには、何か物寂しい思いだった。日本の首都東京で一時でも良い、大都会で生きてみたかったのも、それも事実だ。

「来年の5月には外川に帰らなければならない。美咲ちゃんが海外留学したなら、もう東京で美咲ちゃんに逢うことは出来ない。美咲ちゃんが、留学から帰って来た頃は、僕は真っ黒な顔をした外川漁港のキンメダイ漁の漁師だから」

翔ちゃんの頬に一筋の涙が伝わった。美咲ちゃんは、背中を向けて嗚咽し始めた。美咲ちゃんはどう感じているのだろうか?

沈黙はしばらく続いた。翔ちゃんも美咲ちゃんも言葉が浮かばない。やっと翔ちゃんが言葉を絞り出して言った。

「外川漁港で美咲ちゃんを幸せに出来るか、正直自信はないよ。でも、僕には美咲ちゃんが必要なんだ。生涯を共に生きて行きたいんだ」

美咲ちゃんは振り向いたかと思うと、翔ちゃんの胸に飛び込んだ。

「私のために、お父さんやお兄さんを説得して、東京に出て来てくれたのね。私の傍にいてくれようとしたのね」

美咲ちゃんは嗚咽が激しくなった。

「美咲ちゃん、お願いだ。留学を止めて、卒業したら銚子の中学か高校で養護教諭として一緒に暮らしてくれないか?」

美咲ちゃんは、翔ちゃんの胸を涙で濡らしながらも、首を小さく横に降った。

「美咲ちゃん、お願いだから僕の言うことを聞いてくれないか?」

美咲ちゃんは翔ちゃんの胸の中で嗚咽したままだ。

どのくらい時は経ったろうか。やがて、翔ちゃんの胸から体を離し、美咲ちゃんは声を振り絞った。

「私は、翔ちゃんが大好き!その気持ちに嘘はないわ。大学を卒業して、翔ちゃんの奥さんになって、近くの学校で養護教員をしながら一緒に生きて行きたいと思っていたわ」

いつも優しい美咲ちゃんの穏やかさが消え、凛とした表情に変わっていた。美咲ちゃんは、頬の涙を拭おうともせずに言葉を選びながら続けた。

「翔ちゃん、もう大分前になるけど、私が大学に入学してひと月が経った頃、長い手紙を何度か続けて送らせて貰ったことがあったわよね。

あの時、中学校で養護教諭をしている叔母の話しをさせて貰ったのを憶えている?

叔母は、勤務先の中学校で当時二年生だった女子生徒が自殺未遂を起こした時に、もう養護教諭を辞めようとした。そして私の両親に相談見えた時、その話しを両親と一緒に聞いていた私は、叔母の話しが終わろうとした時に思わず叫んだの。

『私、美智子叔母さんのような養護教諭の先生になりたい。叔母さんのように、子供たちを救いたい。そのために、養護教諭になりたい!ねえ、いいでしょ?お父さん、おかあさん?』

そう言ったら叔母は微笑んでくれて言ったの。

『私、これからも養護教諭を続けていくわ。なんだか、美咲ちゃんに勇気付けられ、また頑張ろうという気になったわ』

それから叔母は続けて言ったの。

『美咲ちゃん、大山捨松と言う女性を知っている?日本人で初めて明治の初期にアメリカに留学し、帰国後に日本の女性の看護婦教育・女子教育への支援など日本女性の地位向上に尽力した人なの。きっと役に立つから、後でこの人のことを調べてみて。それから美咲ちゃん!養護教諭にも国際的な視野が必要よ。英会話くらいは当然出来ないと、外国人の子や帰国子女が保健室に来たときに困るわよ。私は、若いうちの海外留学を絶対勧めるわ!』

あの日、あの瞬間から私は、海外留学をする決心をしたの。高校二年生の時だったから、まだ翔ちゃんと親しくなる前の話しだけど。                                                                                                          

今、日本の教育現場は大変なことになっていることが、叔母の話しで分かったわ。私も、辛い生き方を強いられている子供たちを救いたいと思った。もちろん未熟な私にそんな大それたことが出来るとは思ってはいない。だから大学の看護部看護学科に入り、養護教諭一種免許を取って、きっと近い将来立派な養護教諭になって見せると思った。

でも、海外留学の夢も諦められないの。もし、日本語の良く分からない子どもが保健室に来たときに、英語の繊細な表現を理解してあげられなかったら、可哀そうだし、救えない!そもそも、それが出来ないのなら養護教諭の資格がないとさえ思えるの。

翔ちゃん、ごめん。私の方こそ一方的に自分の都合だけを考えて。ごめんなさい!」

美咲ちゃんは、翔ちゃんの萎れた様子に言葉を一旦きった止めた。

「美咲ちゃん、大丈夫だよ。美咲ちゃんの言うことは良く分かるよ。でも、約束して欲しいんだ。いつかきっと、僕と外川で一緒に暮らしてくれるって」

翔ちゃんは哀願するようなか細い声で言った。

「翔ちゃん、私は翔ちゃんが大好き。この気持ちはいつまでも変わらないわ。もう少し私に話しを続けさせてちょうだいね」

美咲ちゃんの諭すような言い方に少しだけ翔ちゃんも元気が出たようだった。

「翔ちゃん、私に海外留学に行かせて欲しいの!今、この時しかないの。卒業してからの留学では、就職にも影響が出てしまうし。留学をする国はたくさんあるけれど、翔ちゃんのことも考えて決めたのがオーストラリアなの。

オーストラリアは治安が良いし、それに日本とは時差が最大で2時間なの。だから、いつでも連絡を取り合えるから大丈夫。気候は、とっても温暖だし。ねっ、いいでしょ?」

美咲ちゃんは、オーストラリアの大学の環境のことや生活費のことなどを話したかったけれど、ここで今夜はやめることにした。

翔ちゃんは項垂れたままだ。これから、翔ちゃんはどうなってしまうのだろうか?    つづく

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